立教学院主催 池上彰氏講演会
第一部「読書の魅力・情報とつきあう方法」開催レポート

立教大学客員教授 池上 彰

2023/09/25

OVERVIEW

2023年5月27日、ジャーナリストで立教大学客員教授の池上彰氏による講演会を池袋キャンパス タッカーホール講堂で開催しました。講演のテーマは「読書の魅力・情報とつきあう方法」。立教小学校、立教女学院小学校5・6年生とその保護者、約700名が集まりました。講演の一部をご紹介します。

疑問を持ち、本で調べてみることが大切

私は本がとても好きです。だから今日は本を読む楽しさや意味について話してみたいと思います。

5月にG7広島サミットが開催されました。各国の首脳が並んで記念撮影を行うのですが、その並び順に疑問を感じた人はいるでしょうか。きちんとルールがあるんですね。今回は議長国が日本だから岸田文雄総理大臣が真ん中に立ちます。議長の横には国家元首が立つことになっていて、岸田総理の右手に大統領の就任年数がより長いフランスのマクロン大統領が立ち、左手にアメリカのバイデン大統領が立ちます。さらにその外側にカナダ、ドイツ、イタリア、イギリスの首相らが立つわけです。首相は国家元首ではないので、大統領よりも外側に立つという決まりになっているんです。こうしたニュースを見た時に「あれ、どういうことかな?」と疑問を持つことが大切です。そして疑問に感じたら調べてみる。インターネットで簡単に調べることはできますが、情報のチェックが不十分なことがあり、間違いや真偽不明の情報が結構あります。一方、本は著者が執筆した後、本人や編集者が原稿の内容を確かめて、さらに校閲というチェックの専門家が細かく確認するので、かなり正確な情報を手に入れることができます。ですから、まずは本できちんと調べることを心掛けてほしいですね。

※ G7広島サミット:第49回先進国首脳会議。2023年5月19日から5月21日まで、広島県広島市で開催された。

一冊の本から夢が定まり、広がることがある

人生を決めた一冊の本。そんな話をよく耳にしますが、私も小学6年の時に人生の道筋を決めた一冊に出合いました。『地方記者 <続>』(朝日新聞社・1962年)という本です。書店で偶然見つけて、面白そうだったのでお小遣いで買いました。朝日新聞の地方支局で働く記者のドキュメントで、ライバルの新聞記者と特ダネ競争をする話などが書かれてあります。当時、ニュースを知るには、テレビではほとんど放送していなかったから新聞を読むのが主流でした。この本で、新聞記者たちの知られざる仕事ぶりを知り、中には殺人事件を追いかけているうちに警察よりも先に犯人を見つけてしまったというエピソードも書いてありました。そんな刺激的な仕事を将来してみたいと思ったんですね。

その後、成長していく中で将来の進路についていろいろ迷いましたが、大学4年になって就職先を考えた時に、小学生の頃に地方勤務の新聞記者になりたかったことを思い出したんです。その頃にはテレビでのニュース番組が多くなっていたこと、NHKの記者は地方局勤務から始まることから、NHKに入局しました。そして、念願かなって地方記者として勤務するようになったのです。実際、私も殺人事件の取材で、警察よりも先に犯人に行き当たる経験をしました。一冊の本との出合いによって将来の夢が定まったり、広がったりすることがあるのです。

「知らない」と気付くことで、一歩前進できる

今後、皆さんが世界で活躍するようになる時に大事な教養知識となる本があります。それは聖書です。ヨーロッパやアメリカはキリスト教圏なので、みんな子どもの頃から聖書を読んでいるのです。聖書由来の言葉は多く、例えば「目からうろこが落ちる」という言葉は、新約聖書(使徒言行録第9章)の中に出てきます。聖書をきちんと読んでおくと、大人になった時に世界のどこに行っても通用する教養人になれるでしょう。その意味で、聖書を学べる立教にいることは幸せですね。いろいろな本を読み、いろいろなことに疑問を持つ。それを調べてみることで、知識はどんどん広がっていきます。ぜひ実践してみてください。

最後に皆さんに伝えたい、私が最も好きな言葉があります。それは「無知の知」。ある有名な哲学者(ソクラテス)が言った言葉です。「自分は物事を知らない」ということを知っている、という意味ですね。勉強をしていない人は、自分が物事を知らないことに気付きません。でも勉強すると知らないことがたくさん出てきます。これが一歩前進なのです。私はこの言葉が大好きだからこそ、たくさんの本を読んでいます。読めば読むほど自分は物事を知らないと気付き、もっと勉強しようという気持ちが湧いてくるのです。皆さんもぜひこの言葉を肝に銘じて、たくさん勉強してもらいたいと願っています。

プロフィール

PROFILE

池上 彰(いけがみ あきら)

ジャーナリスト。1950年、長野県松本市生まれ。1973年にNHKへ記者として入局。島根県松江市、広島県呉市での勤務を経て、東京の報道局社会部に転任。1994年から2005年まで「週刊こどもニュース」の“お父さん”を務める。2005年に独立。2016年4月より立教大学客員教授。

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