仲間と共に音を紡ぎ、奏でる時間——吹奏楽部座談会——

立教大学異文化コミュニケーション学部 星野 宏美教授×立教池袋高校 伊東 音弥さん×立教新座高校 植松 想さん

2023/03/03

OVERVIEW

さまざまな管楽器の音が重なりハーモニーを奏でる吹奏楽。立教池袋高等学校および立教新座高等学校の吹奏楽部は、それぞれ独自の音楽を追求し、コンクールや演奏会でそのサウンドを披露しています。今回は、池袋・新座の吹奏楽部で部長を務めた2人と、西洋音楽史を専門とする立教大学異文化コミュニケーション学部の星野宏美教授が語り合いました。

新たな楽器を手に、吹奏楽の世界へ

立教新座高等学校吹奏楽部 2022年度部長 植松想さん

星野 私が最初に吹奏楽に触れたのは、小学校の鼓笛隊で太鼓を叩いた時でした。小学5年でフルート、小学6年でアルトホルンも経験しました。2人が楽器を始めたきっかけや吹奏楽部に入部した理由は何ですか?

伊東 父親の影響もあり幼少期からピアノやクラシックギターを習っていたのに加えて、小学4年から6年まではブラスバンド部に所属しトロンボーンを吹いていました。立教池袋中学校に入学し、部活動でも音楽を続けたいと思い、吹奏楽部へ入部しました。それまで経験してこなかった木管楽器を希望したところサックス担当になり、ソプラノやアルト、テナーサックスを吹いています。

植松 私は小学6年までバイオリンを弾いており、幼い頃から音楽は身近な存在でした。吹奏楽部に入部したのは、立教新座中学校の入学式で吹奏楽部の演奏に感動したのがきっかけです。特にサックスが印象深かったので、テナーサックスを希望しました。

立教新座高校は、第28回西関東吹奏楽コンクール高等学校部門Bの部に出場し、金賞を受賞。2022年9月

星野 2人とも入部前から音楽的な素養があったのですね。部活動はどのような雰囲気ですか?

伊東 立教池袋中学校・高等学校(以降、池袋中高)の吹奏楽部のモットーは「けじめ・あいさつ・返事・清潔さ・向上心・誠実さ」。中高合わせて60人ほどの大所帯なので、基本的な礼儀や振る舞いは常に気を付けています。その一方で、中高の生徒が一緒にパート練習をしたり気軽にアドバイスし合ったりと、仲の良い雰囲気もあります。

植松 立教新座中学校・高等学校(以降、新座中高)の吹奏楽部は中高合わせて30人程度と人数がそれほど多くありません。少人数なので、音楽をつくり上げていく過程で対話を重ねられるところが強みであり、魅力だと感じています。コンクール以外は中高一緒に練習や演奏を行っていて、先輩・後輩の関係を超えて仲良くなれる環境だと思います。後輩が先輩に対して音楽的な指摘をして、先輩もそれを自然に受け入れるようなこともあります。「みんなで良い音楽をつくり上げよう」という共通意識のもと、活動に取り組んでいます。

星野 池袋も新座も、中高6年間続けて音楽と向き合える良い環境ですね。
立教池袋中学校・高等学校吹奏楽部
【部員数】中学 36人/高校 30人
【活動日】中学・高校ともに週5回
(2023年1月現在)

  • 年間活動予定
    4月 新入生歓迎演奏会
    8月 コンクール
    11月 R.I.F.(文化祭)発表
    12月 クリスマス礼拝、クリスマスジャズコンサート
    1月 ASIJ交流演奏会
    3月 定期演奏会
立教新座中学校・高等学校吹奏楽部
【部員数】中学 12人/高校 14人
【活動日】中学 週4回/高校 週5回
(2023年1月現在)

  • 年間活動予定
    4月 入学式演奏
    8月~10月 コンクール
    11月 S.P.F.(文化祭)発表
    1月 定期演奏会
    3月 卒業式演奏

楽器と音楽への愛を抱き、自分たちらしい音を奏でる

立教池袋高等学校吹奏楽部 2021年度部長 伊東音弥さん

伊東 これは「吹奏楽部あるある」かもしれませんが、私が中学の頃は木管楽器と金管楽器で派閥が分かれていたこともありました(笑)。今はパート間の壁のようなものはなくなっているのですが。

星野 皆さんの「楽器愛」がそうさせるのでしょう。6年間一つの楽器を続ける愛、「この楽器が一番良い」という思いが大きくなるはずです。毎日、抱きしめるように楽器を吹きますからね。練習中に少し離れたところで別の楽器から音が出ていると、「静かにしてくれ」と思ってしまう(笑)。そんな楽器愛・自己愛が強い人が集まって、アンサンブルとして成り立つのが音楽の面白いところでもあります。

伊東 自分の楽器やパートに対する愛もありますが、他の楽器にチャレンジしたい気持ちもあり、2022年12月のクリスマスジャズコンサートではドラムや金管も担当しました。自分にとっては「やっぱりサックスが一番だな」という思いを認識できたと同時に、普段とは違う楽器を触ることで新しい視点が得られることもあると気付きました。

星野 それは良い学びでしたね。池袋中高の吹奏楽部はジャズもやるのですか?

「立教池袋中学校・高等学校 第24回定期演奏会」2022年03月

伊東 はい。顧問の先生がジャズ好きということもあり、ニュアンスやグルーブ感を大切にして演奏しています。これまで、ジャズトランぺッターのウィントン・マルサリスさんや、ジャズ作曲家の挾間美帆さんを招いて一緒に演奏したり、American School in Japan(ASIJ)の生徒との交流演奏会を開催したりと、ジャズの考え方をベースに、音楽を共通言語と捉えてさまざまな人と積極的に交流しています。

植松 新座中高は池袋とは違い、クラシック音楽に寄せた演奏を行っています。22年のコンクールでも、他校が有名な吹奏楽の曲を選ぶ中で、立教新座はバルトークの弦楽四重奏曲第4番を吹奏楽向けに編曲したものを演奏しました。

星野 良い曲ですね!いつもクラシック音楽からの選曲なのですか?

植松 はい。21年はショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲でした。伊東さんの話を聞いていると、池袋と新座の吹奏楽部の違いが垣間見えて面白いです。立教はコンクールでジャズやクラシックの曲を演奏する変わった男子校、なんて思われているかもしれません(笑)。実際に「こんな曲は聞いたことがない」と言われることもありますが、「新座中高にしか出せない雰囲気」と評価の声も多くあります。

星野 王道の吹奏楽を表現する方が盛り上がる場面もあるかと思いますが、あえてそうせず、自分たちの音楽性を追求しているのですね。やはり音楽への愛や意思の強さを感じます。本当にどちらの部活もユニークで素晴らしいです。
立教池袋中学校・高等学校吹奏楽部2022年度の実績
  • 第62回東京都中学校吹奏楽コンクール
    B組 金賞受賞
  • 第62回東京都高等学校吹奏楽コンクール
    東日本組 金賞受賞
    (決勝大会進出)
立教新座中学校・高等学校吹奏楽部2022年度の実績
  • 第63回埼玉県吹奏楽コンクール【中学校】
    中学校Bの部 南部地区大会 金賞受賞
  • 第28回西関東吹奏楽コンクール【高校】
    高等学校部門Bの部 金賞受賞
  • 第22回東日本学校吹奏楽大会【高校】
    銀賞受賞
  • 2022(第28回)日本管楽合奏コンテスト全国大会【高校】
    高等学校S部門 最優秀賞・審査員特別賞受賞

誰かと時間や意識を共有しながら演奏することの面白さ

星野宏美 異文化コミュニケーション学部教授

星野 中高6年間の活動の中で特に印象的だったことを教えてください。

伊東 21年度に部長を務めたのですが、就任してすぐに、部の魅力や課題点を整理し、どうにか次のステップへと進化できないかと考えていました。部員みんなが活動しやすい環境をつくりたいという考えのもと、例年より早い時期にコンクールの曲を決め、1カ月単位で練習のスケジュールを組んだり、楽譜の管理方法を見直したりと、小さな改革を積み重ねたんです。結果として21年度のコンクールで十数年ぶりに金賞を受賞でき、集大成である3月の定期演奏会でも成功を収めることができました。変化のために行動したことが顕著に結果として表れ、1年間取り組んできて良かったなと感じました。

植松 コンクールで地区大会、県大会、西関東大会を勝ち進むと東日本大会に出場できるのですが、私が中学1年の頃は、そんな夢の舞台に手が届くとは思っていませんでした。でも、徐々に部の実力が付いていき、21年度・22年度と2年連続で東日本大会に出場でき、21年度は初出場で金賞を受賞できたことが、6年間で最も印象深い思い出です。良い成績を収められたことはもちろん、仲間と共に練習に取り組んだ日々や先生から掛けられた言葉、音楽を一緒につくり上げてきたという感覚が、何より大切な財産になったと感じています。

星野 良い6年間を過ごしましたね。日々の努力が成果につながった経験は、今後も自分を支えてくれるでしょう。吹奏楽を通して成長を感じた部分はありますか?

池袋中高吹奏楽部 クリスマスジャズコンサート。2022年12月

2022年度の池袋中高吹奏楽部ASIJ交流演奏会

伊東 アンサンブルに必要な協調性を身に付けられたことです。私自身どちらかというと目立ちたがり屋のタイプで、サックスも「俺が主役だ!」という楽器だと思います。純粋なジャズであれば「目立ってなんぼ」ですが、吹奏楽は周りに合わせて音を紡いでいくものです。俯瞰的な視点を持って、みんなと協調することの醍醐味(だいごみ)に気付くことができました。

星野 不思議なことに、最初から周囲と合わせようとすると、つまらない音楽になってしまうのです。「目立ちたい」という気持ちがないとアンサンブルもできない。経験を重ねるごとに、自分の音と周囲の音が溶け合う心地良さに意識を向けられるようになり、伊東さんのような域に到達できるのです。植松さんはいかがですか?

植松 デジタル化が進み、簡単に同じものをたくさん生み出せる時代に、アナログな経験がいかにかけがえのないものか実感できたことが大きな成長につながっていると思います。譜面上の音符を楽器で音にするだけではなくて、自分をどう表現するか、「自分たちの音楽はこうだ」という感情をどう乗せるか——そのように試行錯誤する過程が価値あるものだと考えています。さらに、音楽はコミュニケーションツールでもあると思っていて、長年一緒に演奏してきた仲間は、「こんな雰囲気で吹きたい」と言葉に出さなくても、推し量って音を合わせてくれます。簡単に意思疎通できていることに感動して、より演奏が楽しいと感じるようになりました。

星野 言葉を使わない非言語コミュニケーションとして音楽が役割を果たしていることを実感したのですね。自分が感じたことをうまく言語化できていて驚きました。生きることの根本はアナログだと気付いたのは、とても重要なことです。コロナ禍で、音楽は不要不急のものとして扱われ、一つの場所に集って練習をしたり演奏をしたりするのが難しくなりました。一方でデジタル化が急速に進み、時や場所を選ばずに、オンラインやオンデマンドで音楽体験を共有できるようになりました。音楽が身近になったのも事実です。しかし、私はそれで満足してはいけないと思っています。便利になるのは良いことですが、便利を求めすぎると音楽の本質が失われてしまう。人と会って話を交わしながら練習を行い、生の音を聴き、デジタルでは再現できない時間と空間を楽しむことが大切だと感じています。

2023年1月開催の「立教新座中学校・高等学校 第20回定期演奏会」リハーサル

2023年度S.P.F.(文化祭)3年ぶりに聖パウロ礼拝堂で演奏

人生を音楽と共に歩んでいく

星野 2人は立教大学に進学予定だと聞きました。大学の音楽の授業では、どのようなことを学ぶと思いますか?

伊東 専門的な音楽史や音楽理論を勉強するのでしょうか。

植松 デジタル社会における音楽産業の発展や、時代に合わせた音楽文化の在り方などを学ぶイメージです。

星野 2人とも鋭いですね。立教大学が大切にしているリベラルアーツは、中世ヨーロッパ大学の自由七科「算術」「幾何」「天文学」「音楽」「文法」「修辞学」「論理学」に起源を持っています。これらは自由選択科目でなく必修科目。全ての科目を学んだ上で何を専門にしたいか考える、自由に生きるために必須の学問でした。ここからも分かるように、音楽はヨーロッパでは古くから一つの学問として確立しているのです。バッハは音楽の父と言われますが、実はバッハより2,000年以上前にさかのぼる古代ギリシアのピタゴラスこそが音楽の始祖と捉えられます。音楽は数学的な考えを土台に美しい調和を生み出しています。1週間は7日であることと、1オクターブに含まれる音は7つであることは、実は関連がある——大学では、数学や天文学と深く関連している音楽の面白さを、歴史や音楽理論をひもときながら学ぶことができます。また、こうした伝統的なアプローチにとどまらず、現代アートと音楽のつながりや、AI時代の音楽文化を考える科目もあるので、ぜひ楽しみにしておいてください。最後に、今後の目標を教えてもらえますか?

伊東 大学では、主体性をもって学びに向き合うことが大切だと思います。どの学部に進学したとしても、学部という枠にとらわれずにさまざまな分野を学びたいです。音楽はずっと続けたいので、ジャズ系のサークルに入ろうかと考えています。将来はプロのギタリストとして活躍できたらいいなと思っていますが、厳しい世界だということも理解しているので、社会に出るまでじっくり自分の道を探すつもりです。

星野 好きなことを職業にできる喜びは大きいですが、それに伴う責任やリスクもありますよね。立教大学に進むのであれば、音楽を愛しながら広い視野で自分の人生を見つめてほしいと思います。大学でいろいろなことを学んでなお音楽を追求したいと思うのであれば、それからでも決して遅いなんてことはありませんから。

植松 中高6年間で国外の作曲家に触れる機会が多くあったからか、グローバル系の分野に興味を持っています。世界の情勢に目を向け、さまざまな国の文化や社会背景について理解を深めたいと思っています。また、吹奏楽部の顧問の先生からは生き方や考え方といった音楽以外の部分も影響を受けたので、音楽系の部活動やサークルに限らず、生かせる場を探したいです。

星野 異文化コミュニケーション学部をはじめ、立教にはグローバルな学びと出合える場が多々あります。期待していますよ。大学生になると、興味関心が向く物事がどんどん増え、今よりもっと忙しくなるでしょう。1つのことに費やせる時間は減っていくかもしれません。それでも、楽器や音を愛するアナログな時間を大切にして過ごしていってください。
※記事の内容およびプロフィールは、2022年12月取材当時のものです。

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