“学び合う”教育の真価

小大連携で進むアシスタントティーチャーの取り組み

2022/05/13

OVERVIEW

2005年よりスタートした「アシスタントティーチャー(以下、AT)」は、立教大学の学生が立教小学校の授業補助の役割を担う、小大連携の取り組みの一つです。ATは、文学部教育学科の学生から始まりましたが、現在は全学部の学生が参加可能です。児童のサポートにとどまらない、ATの学びの効果とは。具体的な取り組みや現場の声を踏まえて、立教小学校の名島亜美教諭と立教大学文学部教育学科の渡辺哲男教授にお話を伺いました。

教員を目指す学生の貴重な学びの場

名島 ATが提案されたのは、立教小学校と立教大学の教員がより良い教育を目指して意見交換を行う「小大研究会」でのことです。授業や関連する業務の支援をお願いしたい小学校側の思いと、学生に現場経験を積ませたい大学側の思いが合致し、2005年よりスタートしたと伺っています。「共に生きる力を育む」という立教学院の教育目標にも通ずるのではないかと、当時から考えられていたようです。現在は、文学部教育学科を中心に複数の学部・学科の学生、総勢20人ほどが1年間を通じてATとして授業補助に来ています。

渡辺 教育改革や社会の変容によって、教員は日々さまざまな対応に追われています。新任教員も即戦力として教育活動にあたることが期待されますが、そのためには学生時代の現場経験が欠かせません。そうした点を踏まえると、ATは学生にとって貴重な機会であることは間違いありませんね。

名島 私が担当する図工科では、授業内で使用する道具や材料の配布、作品の整理などをはじめ、クラス全体を見て児童の安全に配慮したり、困っている児童をサポートしたりと、授業を円滑に進めるための補助全般をATにお願いしています。教員はクラス全体の様子を把握しながら児童一人一人にも目を配る必要がありますが、約40人の児童を一人で見るのは大変な時もあります。けれども、ATがいることでクラス全体に注意が行き届き、児童も存分に自己表現ができるようになります。特に図工科は、作品を通して児童とコミュニケーションを図ることが大切です。一人一人とじっくり向き合いたい気持ちと時間の制約上教員一人だけでは限界があるというジレンマを、ATが解決してくれています。

学生は授業の事前準備をはじめ、授業時間中に個別で指導・アドバイスを行うなど、積極的に児童とコミュニケーションを図る

2019年度〜2021年度ATの実施事例
  • 算数、英語、理科、家庭科、図工、習字などの教科の授業補助
  • 読書、自学自習、休み時間のサポート
  • 遠足、キャンプ、運動会などのイベントのサポート

1教科につき2人程度、毎日4~5人の学生が活動している。
※新型コロナウイルス感染症の感染予防対策等の影響により、年度によって未実施のものもあり
渡辺 ATがうまくカバーしているのですね。当初は教育学科の学生のみが対象でしたが、現在は他学部の学生も参加していると聞きます。異なるバックグラウンドを持つ者同士が交流しながら児童のサポートに取り組むというのも、教員を目指す学生にとって学びの多い機会になっているのではないでしょうか。

生のコミュニケーションを見聞きする重要性

名島 私も立教大学の学生時代にATを経験しました。それまで、指導の仕方は大学の授業で得られる範囲のイメージしか持っていなかったのですが、実際に授業に入ってみて「先生ってこんな指導方法をとっているんだ」と目からうろこが落ちたことをよく覚えています。

渡辺 何か具体的なエピソードはありますか?

名島 図工科の授業で、ある段階まで説明してあとは児童に委ねるような進め方をされている先生がいらっしゃいました。数人の児童が自力で先のステップにたどり着いたのを見て「ミニ先生になって、周りの子に教えてあげてね」と言うと、自然と児童同士が学び合う場が生まれたのです。その他の教科にもATに入りましたが、一方的に教授するのではなく、見守り寄り添いながら、児童のワクワク感や学びへの興味、工夫する力を引き出す授業作りを学ぶことができました。

渡辺 教員は、時にレトリック(物事を別の事柄に例えたりすること)を使ったメッセージを発することを求められます。例えば、児童が発言する声が小さい時に「もう少し大きい声で言ってくれる?」と伝えるよりも、教室の対角にいる別の児童に「今の内容聞こえた?」と尋ねる方がいい。発言者は「じゃあ、聞こえるように言おう」と、教員だけではなくクラス全体に向かって声を届けようとします。そうした指導の技術は、大学で模擬授業をやっているだけでは身に付きません。現場の教員がどのような言葉遣いや振る舞いをしているか間近で見聞きして、そこから学んでいくしかないのです。

名島 おっしゃる通り、私もAT時代に先生方と児童の生のコミュニケーションに触れて、教員として多様な児童と「対話」をする方法や、その際に意識すべきことを肌で感じ取ることができました。現在ATとして活動している学生も、「大学では文献からの学びや指導案作成が中心ですが、現場を見て教職の尊さを知ることができたり、知識と経験とを結び付けることができたりした」と言ってくれています。

渡辺 もちろん、そういった「プロの技」を使えるようになるまでには時間を要するかと思いますが、実際に見聞きした経験があると、教職に慣れた頃に自分の力として発揮できるようになるでしょう。

名島 一方で、児童にとってもATは大きな存在といえます。児童にはATも一緒に学ぶ先生であることを事前に伝えています。互いに尊重し合うことで、教室にいる全員で授業を作り上げる空気が生まれますし、日によって違うATが授業に入るので、いろいろな視点や切り口のコミュニケーションが生まれ、児童は多様な学びの楽しさを味わうことができています。

「個の論理」を引き出すために

渡辺 近代の学校教育制度は、子どもたちに合理的な思考や行動を植え付けるシステム、という考え方が主流でした。決められた時間にクラス全体で決められた勉強をさせ、ルーチンワークをこなせる大人を育てる。急速な近代化のためには、同じ思考をする人間がたくさん必要だったのです。しかし、徐々に「学びの個別化」が重視され始め、子ども一人一人がそれぞれ持つ論理を大切にすべきだと考えられるようになりました。教員には、その論理に寄り添い理解を示すことが求められますが、ATがいると教員だけでは見落としていたものを拾い上げることができます。子どもの論理を見つけていく重要な役割を、ATは担っているのです。

名島 授業終了後、ATは「あの子はここでつまずいているようだった」「こういう困りごとを抱えている児童が多いので、クラス全体にアナウンスすると良いかもしれない」と、率直な意見を述べてくれます。子どもたち一人一人を大切にする立教小学校の教育は、ATによって支えられている面があるといえます。
渡辺 さらに、教員自身の「個の論理」も忘れてはなりません。教育学科では、決まった理念を押し付けることはせず、学生一人一人が自分のやり方で真理を探究する姿勢や素地を育むことを目指しています。真理にたどり着くまでの道は自分で作り、違うと感じたらすぐに方向転換をしていい。一つの理念にとらわれていると、それこそ同じ思考をする教員を量産するだけになりますから。

名島 大学時代、先生方からは「自分はどう考えるか」を常に問われていたように思います。情報や物事をそのまますぐに取り入れるのではなく、多角的に考察することで、正しさは立場や時代によって異なるということを学びました。それは教育現場でも同じで、教員が良いと思うことが児童にとって良いことかどうかは分かりません。今後も、常に真理を探究し、個の論理を引き出せる教員を目指したいですし、児童・教員・ATが互いに学び合いながら成長していける場を大切にしていきたいと思います。

渡辺 哲男(左)
立教大学文学部教育学科教授

名島 亜美(右)
立教小学校 図工科教諭
2016年 立教大学文学部教育学科初等教育専攻課程卒業

ATを経験した学生の声

江成 白華さん
立教大学文学部教育学科初等教育専攻課程4年次

児童の成長に触れ、
教職の喜びを体験できる貴重な時間

小学校の教員になるという夢に近づくため、学校現場で児童や先生方と関わり自分自身の能力を高める機会を得ようとATに応募しました。図工科の授業補助では、児童が道具を安全に使えているか配慮しながら机間指導を行っています。初めて触る道具に戸惑っていた児童も、授業が終わる頃には使い方をマスターしており、児童の成長スピードに驚きました。児童の学びへの意欲や創造性に直接触れ、多くの感動や気付きを得られたと思います。また、児童が「早く席に座ろう」「静かにしよう」と互いに声を掛けている姿を見て、教員がいなくとも自分たちで集団を作り上げて学びを深め合っていける力を育てることの重要性を実感。そのようなクラス作りの方法を今後の学びに生かし、自分の成長につなげていきたいです。

立教大学の学生によるその他の取り組み

  • 中学英語夏期補習[池袋中高]
    中学1~3年生の希望者を対象に、夏休みに実施している5日間の集中補習。1人の立教大学の学生が中学生2~3人の個別指導にあたっています。
  • 中学数学・技術授業補助[新座中高]
    中学1年生の数学(数量)、中学1~3年生の技術の授業で、立教大学の学生が授業補助として生徒へのサポートなどを行っています。
  • スポーツ分野の連携[小学校/池袋・新座両中高]
    立教大学体育会の各クラブに所属する学生が、小学校の体育科の授業をサポートしています。また、中高のクラブ活動にコーチとして参加したり、合同で練習を行ったりと、多くのクラブ間で連携が進んでいます。

※記事の内容およびプロフィールは、取材当時のものです。

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