次のステージへ進む立教の一貫連携教育

ウィズコロナへの対応に見る、新しい教育の形

2021/06/17

OVERVIEW

新型コロナウイルス感染症が猛威をふるった2020年。
立教学院の4校も在校生の安全を守り、学びを止めないためのさまざまな対応を迫られました。
今号は、立教小学校、立教池袋中高、立教新座中高の校長と、立教大学総長が、新型コロナウイルス感染症への対応を共有した上で、一貫連携教育のさらなる強化に向けて語り合いました。

“学びを止めない”ためオンライン授業を全面実施

左から西原 廉太(立教大学総長)、佐藤 忠博(立教新座中学校・高等学校校長)、豊田 由貴夫(立教池袋中学校・高等学校校長)、田代 正行(立教小学校校長)

西原総長(以下、西原) 本日は、新型コロナウイルス感染症への対応状況や、それを踏まえた21年度の抱負、また2024年の立教学院創立150周年に向け、一貫連携教育のさらなる強化についてお話を伺いたいと思います。まずは、20年度の各校の取り組みをお聞かせください。

佐藤校長(以下、佐藤) 立教新座中高では20年4月中に立教大学のシステムを活用して生徒全員にGoogleアカウントを配付し、5月上旬からオンライン授業を実施しました。6月に分散登校を開始して以降、「密」を避けながら学校生活をどこまで再開できるのか、学びを止めないためにオンラインをどのように活用するのか検討を重ね、対応にあたってきました。現在は、Wi-Fiやプロジェクターなど設備を整え、タブレット等ICTを活用した授業を模索しています。

豊田校長(以下、豊田) 立教池袋中高では準備期間を経て5月中旬から本格的にオンライン授業を開始しました。中学は動画配信型による授業が中心で、課題を郵送する形で補いました。高校生は1人1台ノートパソコンを所有し、普段からパソコンを活用した学習に取り組んでいることもあり、オンライン授業への移行は比較的スムーズだったと思います。「授業内容が充実していた」との声も聞かれ、教職員の準備のかいがあったと感じています。

※立教新座中学校・高等学校:オンライン文化祭準備(2020年10月)

※立教池袋中学校・高等学校:化学の授業(2020年11月)Ⓒ日本マイクロソフト

田代校長(以下、田代) 立教小学校では対面授業を再開するまでの間、1・2年生には紙の教材や宿題を郵送し、各家庭で取り組んでもらいました。一方、3年生以上の全児童はiPad miniを所有しているためオンライン授業を行いました。学習環境が整っていたことが功を奏し、滞りなく実施できたと思います。小学生は学年や個人によって学習への向き合い方に異なる点が多いため、児童が自分のペースで視聴できる動画配信型を中心とし、「一人も取りこぼさない」意識で授業を進めました。また、6月からクラスを半分に分けて分散登校をスタートさせた際には、兄弟で立教小学校に通っている場合は同じ日に登校できるよう調整しました。他にも、感染防止のために教員が給食を配膳したり、万一発症者が出た場合に備えてクラスごとに使用するトイレの場所を決めたりと、小学校ならではの対応が求められる場面が多かったです。

西原 20年度は、立教大学開学以来の危機的対応を迫られた1年でした。授業の運営方法の検討に着手したのは20年2月。3月初旬には、全科目オンライン化を想定し、授業や教材の準備に取り掛かりました。春学期の授業開始日を4月30日に変更し、全科目オンラインで開講しました。教育の質を担保することが最大の課題だったのですが、教授会で情報共有を行ったり、授業後にアンケートを取りその都度授業内容を見直したりと、教育の質の向上に向けた取り組みも進められ、良いサイクルが生まれていったように思います。今後対面授業が問題なくできるようになったとしても、オンライン化によって習慣付いた姿勢を失うことなく、学生の満足度につなげていきたいと考えています。

※写真 2020年度、各校の様子

※立教小学校:5年生稲刈り(2020年9月)

※立教大学:オンライン学園祭(2020年11月)

危機的状況への対応から見えてきた新しい学校のあり方

西原 廉太 立教大学総長

西原 オンライン授業には検討の余地がありますが、マイナス面ばかりではなかったというのが私の印象です。オンライン化をどのように見ていますか。

豊田 本校ではこれまでも、全ての教室にプロジェクターを常設したり、校舎全域にWi-Fiを整備したりと、ICT環境の充実化を図ってきました。そうしたインフラと、今回期せずして得られたオンライン化のノウハウを掛け合わせ、感染症への対策として導入した取り組みを新たな授業形態へと昇華したいと思っています。例えば欠席者には授業そのものを録画した動画を届けるなどの可能性も検討して、ICTを活用した学びを定着させることを目指します。

佐藤 忠博 立教新座中学校・高等学校校長

佐藤 この1年間を通して感じたのは、学校は生徒が集い交流してこその場所だということです。20年度の文化祭はオンラインで開催しましたが、生徒たちは工夫を凝らし、対面やオンラインを状況に応じて使い分け、見事成功させました。人と人とが直接触れ合うことで生まれる価値を追求すると同時に、物理的に離れていてもつながりを持てる仕組みを模索していきます。

田代 21年度、小学校では粘り強さやリーダーシップといった「非認知能力」を高める教育を展開していきたいと思っています。予測不可能な社会においては、計算や暗記などの認知能力だけではなく「学びに向かう姿勢」が重要になるでしょう。小学校で実施している日記やフィールドワーク、縦割りキャンプ※1などのプログラムはまさにその姿勢を養うものと言えます。既存の取り組みの重要性を再確認し、さらにはオンラインと組み合わせた展開も視野に入れ、検討を重ねていきます。

西原 オンラインは距離という概念に変化をもたらしました。例えば大学の授業だと、1限目は池袋キャンパスで、2限目は新座キャンパスで行われる科目を履修することも可能になったのです。この経験をもとに、今後は時間も空間も選ばずに多様な人々が多様な形態で高等教育を受けることができるインフラを整備したいと考えています。「オンキャンパス」と「オンライン」を有機的に組み合わせた、新しい教育の枠組みを提示する。それが私たちの使命でもあると思います。
※1

縦割りキャンプ

一貫連携教育を次のステージへと深化させる

西原 立教学院では、「テーマをもって真理を探究する力」と「共に生きる力」を育むことを共通の教育目標として掲げ、その実現のために小学校、池袋・新座の両中高、大学の連携強化に取り組んできました。「一貫教育」ではなく「一貫連携教育」という言葉を使用するのは、98年2月に教学企画委員会が提出した答申「立教学院の一貫連携教育の目標と構想」の中で明文化されています。この答申が立教学院の教育の指針となってから20年が経過した今、一貫連携教育の理念や現状の点検を行った上でさらなるアップデートを図りたいと思っています。まずは各校のトップ4人によるワーキンググループを発足し、「一貫連携教育の強化のために改善すべき課題は何か」「どのような新しい取り組みが必要か」といった議論を進めていきたいと考えています。

豊田 由貴夫 立教池袋中学校・高等学校校長

豊田 私は高校生の「卒業研究論文※2」を指導する機会がありますが、少し体裁を整えれば大学の卒論にも匹敵するような素晴らしい論文を書き上げる生徒もいます。「テーマをもって真理を探究する力」をしっかりと備えた生徒が大学に進学し、「立教らしさ」を他の学生に伝える立場になってほしいと願っています。

西原 池袋・新座の両中高、ひいては小学校から進学してくる学生が、大学における中核的存在として周囲の学生に影響を与える「アンバサダー」の役割を担うようにしていきたいですね。

佐藤 本校では立教大学と連携したリーダーシップ教育を14年度から実施しており、20年度からは立教大学講師によるリーダシップ科目を設置、多くの生徒が受講しています。本校の卒業生が大学でもリーダーシップを発揮してくれるのではと期待しています。一貫連携教育の強みの一つに、自分なりの個性や才能を伸ばすことに時間を費やせるという点があります。「自己肯定感」を持った立教生を一人でも多く社会に送り出したいと思います。

西原 高大の連携においては「特別聴講生制度※3」がありますが、年々受講する生徒が増えていますね。特に「グローバル・リーダーシップ・プログラム(立教GLP)※4」の人気が高く、受講した生徒は非常に良い成績を収めています。大学のリーダーシップ教育を大学入学前に経験した学生が、1年次から特別SA※5を務める。今後そういったケースも生まれるかもしれません。また、小学校との連携も大変重要です。

田代 正行 立教小学校校長

田代 立教学院全学校の児童・生徒・学生・教職員が参加する「清里環境ボランティアキャンプ※6」では、かつてキャンプに参加した小学校出身の大学生が、今度は小学生の面倒を見る立場として参加することもあります。そうした学生を見ると、一貫連携教育の中で良いリーダーシップが育まれていることを実感します。今後、非認知能力の獲得にもつながるこのキャンプのような、学院全体を巻き込んだプログラムの拡充に努めたいです。

豊田 リーダーシップ教育は立教学院全体に広がっていますが、本校でも教育の柱の一つに据えることとなりました。4校で足並みをそろえ、取り組みの充実化を図っていきたいと考えています。

西原 大学が創立以来実践しているリベラルアーツ教育が目指すのは、学びを通して世界を読み解く力、世界を変える力を育むことです。学生が夢を語りビジョンを持つことができるように、「理想」や「真理」を追求し続ける価値を提示しながら、学生と教職員が共に学んでいます。リベラルアーツを掲げる大学をはじめ、小学校、池袋・新座の両中高がそれぞれの特性を持ち寄り、一人一人の子どもの中にある豊かさや可能性を引き出し育んでいく。そのような教育を一貫連携で展開していければと思います。
※2~6

卒業研究論文

立教大学特別聴講生制度

グローバル・リーダーシップ・プログラム(立教GLP)

SA(Student Assistant)

清里環境ボランティアキャンプ

※コロナ禍により、一部変更・中止となる場合があります。

立教小学校に新校長、立教大学に新総長が就任

立教小学校

2021年4月1日付で、立教小学校の校長に田代正行副校長(60歳)が就任しました。田代校長は立教大学文学部(教育学科初等教育専攻)卒業後、立教小学校へ教師として着任。24年間担任を受け持ち、07年から教頭、19年から副校長を歴任。任期は4年間です。

立教大学

2021年4月1日付で、立教大学の総長に西原廉太文学部教授(58歳)が就任しました。西原総長は立教大学大学院文学研究科組織神学専攻博士課程修了。同大学文学部専任講師・助教授を経て07年より教授。立教学院副院長、立教大学副総長、同大学文学部長を歴任。任期は4年間です。

※本記事は、『立教学院NEWS』Vol.38(2021年5月)の記事を再構成したものです。記事の内容およびプロフィールは、取材当時のものです。

お使いのブラウザ「Internet Explorer」は閲覧推奨環境ではありません。
ウェブサイトが正しく表示されない、動作しない等の現象が起こる場合がありますのであらかじめご了承ください。
ChromeまたはEdgeブラウザのご利用をおすすめいたします。