聖パウロがつなぐ伝統芸能と立教学院

立教学院副院長・立教大学文学部 西原 廉太教授×二十六世観世宗家 観世 清和さん×立教池袋高等学校3年生 観世 三郎太さん

2018/01/25

OVERVIEW

2012年3月6日、立教大学タッカーホールでキリシタン能『聖パウロの回心』が初上演されました。舞台に立ったのは、二十六世観世宗家・観世清和さんと、その嫡男で当時立教小学校6年生だった観世三郎太さん。1月25日の「使徒聖パウロ回心日」を前に、立教学院副院長で立教大学文学部教授の西原廉太先生と、能とキリスト教の関係などについて語り合いました。

能とキリスト教が共鳴

2012年3月6日上演『聖パウロの回心』。面をつけたイエス役 の清和さん、天使役の三郎太さん(手前左)

西原  「聖パウロ」は英語読みにすると「セント・ポール(St. Paul)」。立教のスクールニックネームとしても使われていて、聖パウロと立教は切っても切れない関係です。「キリシタン能」とはどのようなものだったのですか?

観世  戦国時代から江戸時代にかけ、いわゆるキリシタン大名の庇護のもと、キリスト教を題材にしたキリシタン能はたくさん上演されていたようです。しかし、禁教とされて途絶えてしまいました。詳しい記録は残っておりませんが、若いころから「いつかは舞ってみたい」と思い続けていました。そんな中、三郎太が立教小学校に通うようになり、行事の中に「聖パウロ回心日」を見つけて。聖書を読み「やってみたい」という気持ちが強くなり、自らも能を演じられる国文学者の林望先生に台本をお願いして、新作能『聖パウロの回心』が生まれたのです。

西原  キリスト教徒を迫害し、目が見えなくなったパウロが、イエスの慈愛と使徒の手によって再び目が見えるように。以降キリスト教徒となり布教に人生を捧げた——。この聖書の物語『聖パウロの回心』が、日本の文化である能と共鳴し、日本人の精神性を踏まえた上で新たな解釈が生まれたのを目の当たりにしました。立教のタッカーホールで新たなものが生まれている、その歴史的な場に立ち会えたことは非常に感動的でしたし、研究者としても多くの気づきがありました。

観世  私は能の装束でイエス・キリストを演じましたが、もともと能は神様、仏様に捧げる舞で、さらに奇跡を描くのは最も得意としているところ。演じていてもまるで違和感はありませんでした。そして長年、キリシタン能を舞うのであればパイプオルガンの演奏でと思い描いていたので、立教小学校の長畑俊道先生にバッハのオルガン曲『パッサカリアとフーガ』の演奏をお願いしました。パイプオルガンの独奏で始まり、途中から能の囃子に移ってゆくのですが、それも不思議なほど自然で、幻想的な世界を描けたと思います。

西原  三郎太さんも天使役で舞台に立たれました。いかがでしたか?

三郎太  同級生や先生方が見ていると思うと、めちゃくちゃ緊張してしまって。無我夢中で、実はあまり覚えていないんです(笑)。でも公演後、友達が「お前、すげーな」と言ってくれた。うれしかったですね。

バスケ、能、生徒会

西原  三郎太さんを立教に進学させようと思ったのは?

観世  当時立教小学校の校長だった諸橋保夫先生より「立教は伝統文化を大切にしている学校です」と伺い、ぜひ息子を通わせたいと思いました。また、小学生の小さな子どもから大学のお兄さんやお姉さんまでが共に行事を楽しんでいる「オール立教」の絆にも感激して。真の一貫教育の素晴らしさを感じ、この学校しかないと決めたのです。

西原  立教学院の一貫連携教育は、学院共通の教育目標のもと、各校で“本物を学ぶ”人間教育を行っています。そういう意味では、700年近く継承されてきた能という本物の文化の担い手である三郎太さんにとって、非常にふさわしい学び舎なのではと思います。三郎太さんにとって立教はどんな学校ですか?

三郎太  中高とバスケ部で、能との両立は正直大変でした。その上、高2になって勉強も難しくなる中、生徒会長もやってみよう、と。能の稽古や公演もあり普段から忙しかったので先生方に反対されるかと思いましたが、「どんどん挑戦してみなさい」と応援してくださった。本当に心強く、立教で良かったと心から思えました。大学も立教へ進学します。中高で挑戦してきたことの足場を固め、新しい一歩を踏み出したいと思っています。

若い人に、世界に、 伝統文化を発信

観世  私は周りを見回すと能の関係者ばかり。ほかの世界の友人の少なさを痛感します。息子には大学でいろいろな世界の友達をたくさん作り、視野を広げてもらいたいですね。

西原  立教は留学生や社会人学生も多く、多様なバックグラウンドの学生が集まってきます。三郎太さんにはたくさんの出会いとともに、学生として、そして能楽師として、さらにチャレンジを続けていただきたい。

三郎太  能楽師としてのいまの目標は、父に近づくことです。少しでも近づけるように、日々の稽古に励みたいと思います。

観世  2017年、観世能楽堂は銀座に移転しました。近くには歌舞伎座もあります。この日本の中心地から古典文化を発信し、三郎太と同世代の若い人たちや世界中の方々に、もっと気軽に能に触れてもらいたい。文化の力で未来を創造してゆけたらと思っています。

※本記事は、『立教学院NEWS』Vol.28(2018年1月)の記事を再構成したものです。記事の内容およびプロフィールは、取材当時のものです。

プロフィール

PROFILE

西原 廉太教授(左)
立教学院副院長/立教大学文学部キリスト教学科教授
研究分野は神学、キリスト教学、アングリカニズム、組織神学。博士(神学)。

観世 清和さん(中央)
二十六世観世宗家
1990(平成2)年、家元継承。室町時代の観阿弥、世阿弥の子孫であり観世流の26世宗家として、現代の能楽界を牽引。フランス文化芸術勲章シュバリエ、芸術選奨文部科学大臣賞、紫綬褒章(2015年)、その他多数受章。重要無形文化財「能楽」(総合認定)保持者。

観世 三郎太さん(右)
立教池袋高等学校3年生
二十六世観世宗家・観世清和氏の嫡男。2009年、10歳で初シテ、2015年、15歳で「初面」を勤める。2018年2月、平昌オリンピックの文化事業にて公演予定。

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